北の道25 Ribadeo − ロウレンサ


6月10日(金)リバデオのアルベルゲ。朝飯には昨日の残りのパン半分にサラダとハムを挟んだものとオレンジジュース。小雨が降っているので合羽を着込んで7時にスタートする。マルテンは先に出発したかと思っていたら、私の準備ができるのを待ってくれていたようだ。二人して並んでスタートする。少ししたらサンダルおばさんのノエミに追いつく。市内からの出方が分からなかったら、ノエミおばさんが向こうから歩いてきたスペイン婦人を捕まえて聞いてくれる。南米プエルトリコのおばちゃんだけど、南米には沢山国があってもブラジル以外は全てスペイン語が母国語なので遠くはなれた南米とスペインでも言葉が通じるので便利でお得。

 やっと市外へ出たところで向こうから雨の中を傘も差さずに女の子が早足で歩いて来る。すれ違うときに顔を見たら同じアルベルゲにいたペリグリノだと分かる。え!なんで?深刻な顔をして急ぎ足だったので、きっとアルベルゲに忘れ物をして取りに戻るところだったんだと想像する。アルベルゲからここまで40分は歩いてしまっただろうに気の毒〜。忘れ物がちゃんと見つかることを祈るばかりだ。みんな生活に必要な沢山の物をバックパックに詰め込んでいて、それらを毎日出したり仕舞ったりしているので誰でも忘れ物をする可能性は毎日ある。私みたいに石鹸くらいなら諦められるが、パスポートやカメラなど、絶対に無くしてはいけないものを忘れた場合は戻らなくてはならないので貴重品だけは毎朝チェックしてから出発している。ちなみに私の貴重品はパスポート、現金、カメラ、タブレットにクレジットカード数枚だ。これらは絶対になくしてはならない。

 3人で歩いていたが、徐々にナエミおばちゃんが遅れだしたので、ペースが違うのに一緒に合わせようとするとお互いに疲れることになるのでそのまま離れていく。でも山の中にあったバルに入ってコーヒータイムにしていたら、ちゃんと追いついてきた。おばちゃんは南米だけどアメリカには違いないので、アメリカ式はグーをぶつけあって挨拶するんだと教えてくれる。おばちゃんは今晩の宿はロウレンサだと言ってるが、私はその手前のゴンタンだと言ったら「しょーが無いねー」と言う顔をして笑わせてくれる。

 ぐんぐん高度が上がって本格的な山の中になってきた。こうなると2本スティックでぐいぐい体を押し上げていく私とマルテンの差は開くばかりだ。ナエミおばちゃんの時と同様に、どちらかにペースを合わせることはしないので、やがてマルテンは見えなくなってしまう。離れ離れになっても山の中の一本道だし泊まれるアルベルゲも限られているので心配することはない。



 上るだけ上ったのか、とうとう下り坂になり始めた。ポツポツと家が見え始めた村の中、一軒の家の庭先に4人の女性ペリグリノが寛いでいるので私も入っていく。これアルベルゲ?と聞いたが違うそうだ。空き家にしては荒れていないが人けもないのでやっぱり空き家なのかな?持っている食料で軽く食べておく。ここんとこのマイブームはでっかいパプリカで、大きすぎて一度に食べきれないから種を抜いたのを持ち歩いていて休憩時間に食べている。瑞々しくて美味しい。今までも欧米人が大きな赤いパプリカを食べているところを見ていて、ナイフで切ってそのまま食べているので緑のピーマンみたいに辛いんじゃないのかなと思っていたがまったく違って甘くて旨いものだった。日本のスーパーでも良く目にするが、日本のはこっちで売っている数分の1の大きさだ。そうこうしていたらマルテンがやって来た。ここでは休まなくていいそうなので、また一緒に歩き出す。

 ゴンダン手前にバルがあったので、マルテンはここでコーヒータイムにするそうだ。私は取り合えずアルベルゲまで行きたいので別行動にする。今日はゴンダンに泊まるんだよねと互いに確認する。しかし、そのゴンダンのアルベルゲに付いてみると、若い人たちが数人外のベンチで休んではいるものの、ここは受付が遅いので次の村まで7キロ歩いて行くそうだ。室内をガラス越しに見ると余りぱっとしないアルベルゲで気乗りがしないなぁ。極めつけはトイレが離れた草むらに横一列に並んであることだった。夜中に一度はトイレに起きる私としては、これは大きなマイナス要素だった。若い人たちが出発しだしたので私も着いていくことにする。マルテンもここを見たら次のアルベルゲを目指すことだろう。ここに私がいないし。
 次の村には私営のアルベルゲがあったが、やっぱり公営がいいのでスルー。4人は20代前後の若者なので楽しそうに英語でお喋りしながら歩いている。こういう場合はカタカナ英語の私は入っていけないけれど、若いアメリカ青年がいい奴で、私に気を使って何度も話しかけてくれるので有難かった。

 ロウレンサのアルベルゲには2時半に到着。まだ下段ベッドも沢山残っていたので、2階に上がった部屋の下段をゲット。シャワー洗濯してから町のスーパーへ行こうと外へ出たらマルテン到着。ちゃんと私の思惑どおり、ここまでやって来てくれた。ゴンダンはノーオープンだったと言っている。生憎スーパーはシエスタ中だったので張り紙に「午後は4時半から」と言う文字を確認してアルベルゲに戻る。

 3時半にホスピタレラがやってきて全員がチェックインする。ガリシア州はどこも6ユーロ。スタンプも領収書もどこも同じデザインで工夫がない。最悪なのはガリシアのWi-Fiはスマホの人しか利用できないことだ。スマホ持ってない人はネットが利用できない分1ユーロ安くしてくんないかな。

 シエスタが終わったのでマルテンとスーパーへ買出しに行く。今晩の夕食はマルテンがパスタを作ってくれるそうだ。色んな食材をマルテンの自腹で買ってくれるので、どっかで恩返ししないとだな。一緒に飲むように白ワインも一本買って帰る。途中、マルテンがキャッシングしたいと言い出したので、私の残りも百を切っているので二人で通りにあったATMで金を引き出すことにする。一人でも何とか出来るようにはなったが、念のためマルテンに見てもらってキャッシングする。今回も上限の300ユーロをゲットだぜ。これで手持ちのユーロが合計380になったので、節約すれば20日間ほど暮らしていける。最初のころにアルベルゲがなくて仕方なくホテルに泊まったときに1泊38ユーロも掛かったので、北の道は予想してたのよりずっと金が掛かると震え上がったが、その後は節約できてるので安く上がっている。

 夕方になっても、ここロウレンサのアルベルゲに泊まると宣言していたサンダルおばちゃんのナエミがやってこない。でも、途中には2箇所もアルベルゲがあったので、きっとそこに泊まったのに違いない。今日の場合は心配することはないだろう。もしかしたら私がゴンタンに泊まると言ったので、ゴンタンを目指すペース配分にしたかもね。

 青年は映画やテレビに登場するような典型的なアメリカ好青年だったのでアメリカ人かと思いこんでいたが、アメリカじゃなくてイングランドだった。名前はフィリックス。昔のテレビアニメでフィリックスと言うのがいたと言って見るが、私が子供時代のアニメなので知っている筈がない。連れの女性はフィービーと言って、フィービー・ケーツと言う女優がいたのを思い出した。女性の方がフィリックスより1歳上で24歳のようだ。二人とも快活でお似合いのカップルだ。

 日本の漫画、ワンピースのドクロマークが大きくプリントされたトレーナーを着ている男性がいたので受ける。最初見た時は、まさかと思ってにわかには信じられなかった。昨日のアルベルゲでも一緒になったスペイン人でもちろん日本が発祥のワンピースを知っている。
 ほかのスペイン人が、あんたはスペインに何日いるんだと質問してきたので、日記帳の最初のページに貼り付けてある日程表を見せて説明する。全部で80日とちょっとで、そのうちスペインには70日弱いるだろう。ブエン・ビアヘ(良い旅を)と言ってくれる。グラシアス!

 何度も一緒になる若い女性のくるぶしに靴ずれで出来たらしい大きな穴が開いていたのでどうしたのか聞いたところ、一日に50キロ歩いたときになったと言っている。ご、ごじゅっきろーっ!今回私の歩いた最長距離は40キロで、人生で一番長い距離を歩いたと思っていたが、まだそれより10キロも余計に歩いた女性がいたとは驚いた。私の驚く顔を見て、はははと言っている。この女性もソロで、アルベルゲでは良く自炊して食べている。とても芯の強さを感じる女性だ。

 マルテンのパスタは今日も上出来で、おかげで満腹になる。私みたいにパスタを茹でてソースを加えるだけじゃなくて、ニンニク、チョリソー、トマト、アンチョビなど、色んな食材を入れて、いつも大きめの鍋で大量に作る。多過ぎる気もするが腹ぺこの二人が食べるには調度いいようだ。
 食後にマルテンが明日のカミーノが分からないと言い出したので、一緒に行って教えてあげる。アルベルゲの近くにあるが、ちょっと見落としそうな狭い曲がり角なのだ。

北の道26へつづく